77.予算

長い定例の会議からいつものデスクに戻ると、自然とため息を付いていた。

「やれやれ・・・」

先ほどの会議で決定した予算に基づき、彼らの部門に的確に行き渡るよう書類が作られるはずで、それを承認するのは局長の勤めであった。けれど。

「うまくいかないものですね・・・」

治安維持部門の主張する予算は現状を顧みて的確な額であることは間違いなく、内訳も理路整然と説明されて他部門の統括も承諾したのだ。局長として異議を唱える必要は全くない。局長としては納得がいく結論であった。だが、リーブ個人としては非常に不本意だった。

「・・・はあ・・・」

いつも自分の側に控えている護衛隊長は、本日出張が予定されていないことをいいことに雑用を押しつけている。暫く帰ってこないだろう。

いい加減気持ちを切り替えて仕事にとりかかろうとしたとき、あっさりと局長室の扉が開いた。

「毎度毎度、あんたは辛気くさい顔をするな」
「ちょっ!?シャルアさん!?」
「どうせこんなことだろうと乗り込んだ甲斐があった」
「・・・シャルアさんの権限、抹消していいですか」
「却下だ」
「そんな・・・」

はあ、と先ほどと異なる理由でのため息が漏れる。局長室の扉は通常局長の許可がなければ開くことはないのだが、例外の一人が彼女だったりする。
彼女はかつかつとヒールを鳴らして私の前に立った。

「あんたは予算会議の後、必ず落ち込むな」
「・・・」
「局長としては納得済みの結果なのだろう?そうでなければあんたは会議中にその旨を申し入れる筈だ」
「・・・」
「だが、リーブとしては、納得いかないのだろう。軍事の拡張が」
「・・・」

私は沈黙を守った。
彼女の言うとおりだった。WRO、世界再生機構の最終目標は、我々が援助せずとも世界が修復され、WRO自体を解体することだ。星に害をなすものが全くなくなれば、武器だの兵士だのは必要なくなり、武力を放棄できる。のに。

「・・・あんたはよくやってるさ。そんなにしょげるな」
「しょげてません」
「そんな顔では説得力皆無だな」
「・・・」

fin.

リーブさん個人として軍事関係の予算が増えるたびに落ち込んでいればいい。