81.童話作家

※「英霊召喚」よりは後のハンス独白。

一体今回のマスターはどうなっているのか。

サーヴァントとして召喚された英霊たちは、皆勇ましく戦いに役立つものばかりで、召喚するマスターもそれを望んでいる。が、童話作家である俺は当てはまらない。外れサーヴァント。最初のマスターであるキアラにも失望されたものだった。次のカルデアのマスターはきょとんとしていたが・・・まあ戦闘能力で呆れられたのは間違いない。何故か回復役として連れ回されているようだが・・・。

が、三度目のマスターは変わっている。そもそも、召喚するつもりなどなくあの科学者にはめられたような形で俺を呼び寄せた。ならばガキが一匹迷い込んだところで困惑するか、使えないものだとしてよかったのだが。

・・・童話作家と知って歓迎された。しかも本心から。

気付いたら作品の販売ルートはできあがるわ、原稿を打ち込む道具を渡されるわ、文字を覚えろと教師役のロボットがあてがわれるわ、執務室は与えられるわ。

何ということだ、全く。

仕事嫌いだと幾ら言ってもスルーする。
名刺代わりに「醜い家鴨の子」を朗読すればいつの間にか読者が増えている。あれは戦闘させようというつもりが全くない。いや、思いもしないといったところか。童話作家としての環境を整えて、楽しそうに笑っている。

脳味噌がお花畑らしい。

あれは、他人を受け入れる度量がありすぎる。包容力の規模が桁違いだ。余程の化け物でも、あれは受け入れそうだ・・・全く。そうしてこちらが思うがままに生きることを目を細めて見守るタイプだ。

そうか、と思い当たる。

これまで、俺はサーヴァントとして召還されたとき、マスターを、周りを傍観者として接してきた。マスターを全面に押して戦うときでさえ。だが今回は、その俺を更に傍らから見守る馬鹿がいるということか・・・。やりにくいことこの上ない。

だがまあ。

「ハンス。傷の手当てをしますから、後で寄ってくださいね?」
「貴様、意味がないことをするなと言ったことを忘れているのか?時間を無駄にするくらいなら、とっとと寝ろ、馬鹿マスター!」
「ハンスの傷が気になって寝られそうにないですね」
「口の減らないマスターだな!いいか!俺の傷は癒えるもんじゃない!そこの書類の山でも整理しておけ!」
「では21時に来てくださいね」
「だから人の話を聞け!!!」

たまには悪くない、かもしれん。

fin.

傍観者の傍観者がいる感じですかね。