年初め

それは元日の夜のこと。
リーブは膝をついて分身と目線を合わせていた。

「いいですか、ケット・シー。これは貴方にしか頼めませんからね」
「はいなー。必ずゲットしてくるで」

びしっと敬礼した分身は、肩から下げたポーチをぽんと叩く。
そんな二人をルーイ姉妹が首を傾げて見守る。

「何やってんだあいつ等」
「さあ・・・?」

   *   *

そして、二日目の昼。
意気揚々とWRO寮の家に帰ってきたケット・シーが一つの紙袋を掲げた。

「ゲットしたでー!!!」
「ありがとうございます、ケット!!!」

気になって仕方なかったシャルアが二人に近づいた。

「リーブ、何の騒ぎだ」
「シャルアさん、これですよ」

ケット・シーから渡された紙袋をシャルアに見せる。
白い丈夫そうな紙袋の中に、布の袋が入っている。
シャルアが布の袋の口を緩めれば、6つの中身の詰まった袋が入っていた。こげ茶の袋を一つひょいと取りだす。ぱんぱんに詰まってはいるが、重くはない。振るってみればさらさらと粉の音がする。袋の正面、金色のラベルに書かれていたのは『ニューイヤーズ・ブレンド』。袋の側面には金色の文字で、『COFFEE BEANS』。ということは。

「・・・コーヒー豆、か?」
「はい」
「このブレンドが欲しかったのか?」
「まあ、そうですけど、それよりもこれ、福袋なんですよ!」
「・・・福袋?」
「ふむ。年始に売り出される中身の分からないお得商品が詰まった袋のことだな」
「ハンス、詳しいですね」
「つまり、あんたはこのコーヒーの福袋が欲しかったのか。あんたなら普通に買えばいいじゃないか」
「いいえ!福袋でしか入っていないニューイヤーズ・ブレンドを含め、ミッドガル産1種、ゴンガガ産2種、ミディール産2種の計6種が200gずつ入って何とたったの5,000ギルですよ!!!こんなお得な商品を買わないわけにはいきません!!!」

ぐっと拳を握って力説し始めたリーブをルーイ姉妹がやれやれと苦笑する。だが、リーブは拳を下ろして残念そうに首を振るう。

「私が直接店に出向いて買いに行きたかったのですが、レギオンに反対されまして・・・」
「ん?どういうことだ?」
「『あんな混雑の中あんたを護衛できませんし、並ぶ皆さんの邪魔になりますから却下です!!!』と・・・」
「・・・つまり、何だ?」

よく分かっていないシャルアにハンスが皮肉気に笑う。

「つまりこういうことだ!コーヒー店は巨大商業施設の一区画、他の店の福袋と同時刻に売り出されている!諸々の福袋目当ての庶民どもが列をなして一気に店内になだれ込むわけだ!人気商品ならば蟻の行列のように長蛇の列になることは必至。そこに筋肉馬鹿の護衛どもが割り込んでみろ、営業妨害かつ奴らにとっても護衛対象が人ごみに紛れて業務を全うできん!レギオンどもに却下されてしかるべき事態というわけだ!」
「・・・ハンス・・・。ええ、その通りです・・・」

がっくりと肩を落とすリーブへとシェルクが小首を傾げた。

「でしたら、ケット・シーでなくとも私たちが代理もよかったのではないですか?」

妹の疑問に姉もぽんと手を打つ。

「そうだ、あたしらでもよかったじゃないか。何故ケット・シーに頼んだ?」
「それは・・・」
「レギオンどもも代理を立候補したんだがな、マスターが断固拒否した!」
「え?」
「曰く、『私用に部下を使うわけにいきません!』だ、そうだ。無駄に頑固だな!仕事では容赦なく部下だろうが仲間だろうが他人だろうが巻き込む奴が今更だろう!」
「つまりや、シャルアはん、シェルクはんも家族やけど、部下やからそんなこと頼めへん思たみたいやで」

ケット・シーが糸目を益々細くしてひらひらと手を振った。
シャルアはリーブの妻だが、WROの科学部門統括。シェルクは義理の妹だが、WROの情報部門統括。
二人ともWRO幹部であり、WRO局長であるリーブの部下でもある。
WRO内では彼らがリーブの家族になったことを知られているが、一般的には知られていない。
シャルアがちっと舌打ちをする。

「あんたがあたしをさっさと妻だと公表すればいいものを」
「それは、その、一応伏せてますので」
「臆病者め」
「うっ・・・。な、何とでも言ってください」
「ハンスを行かせなかったのは・・・」
「俺は見た目がお子様だからな。無駄に遠慮したらしいぞ!それ以前にロボットはいいのかという突込みがあるがな!」
「ま、まあケットは知られてますし・・・私が操っていると思われていればいいですし」

ふむ、と全員の視線がケット・シーに集まった。
ハンスの背ほどしかない猫型ロボット。だが、ジェノバ戦役の英雄で名が知られており、その本体がリーブということも周知の事実。
多少驚かれても5,000ギル持った客として福袋を売ってくれたわけだ。

「ボク、来年も行くゆうことで確定やろか」
「ええ、お願いします」
「来年はあたしが並んでやろうか」
「いえ、シャルアさんたちも護衛付きますから、同じことですよ」
「免除しろ」
「却下します」
「まあこりゃあボクに決まりやなー」
「そうみたいですね」
「一生やっていろ。俺はこのニューイヤーズ・ブレンドとやらを一杯貰うぞ」
「ちょ、ちょっとハンス!」

fin.

後書き。

福袋ゲットした記念に思いついたので。
ハンスはマイペースに自分の分だけコーヒーを入れていればいい(笑)。