WROモービル

ある日、いつもの局長室でうちの上司が上機嫌で宣った。

「レギオン聞いてくださいよ!!」
「どうしたんすか、局長」
「あのギルベルトさんが、ライブラモービルなる戦闘車でカーチェイスを繰り広げ、見事敵の殲滅と仲間の奪還を果たしたそうですよ!!」
「どっから入手したんすかその情報。あそこ異世界でしたよね?」
「そのライブラモービルを倣って、私もWROモービルを創りました!!!」
「人の話ちょっとは聞けって!!!っていや、ちょっとあんた、もう創ったのかよ!?」

   *   *

「ふふふ、これがWROモービル!!!」

じゃじゃーん!と自慢げに紹介されたのは、WRO地下駐車場の特別区域にある銀色の、一見すると普通のスポーツカーだった。俺はしげしげと窓から中を覗く。シルバーに合わせたシートに、運転席には色んなボタンやらメーターやら通信機らしきものまで詰め込まれていた。

「珍しくあんたが公私混同してますねー」
「100%私のポケットマネーで創りましたよ。ふっ。これで私も先頭で戦えます!!」
「・・・局長。わざわざ作ったところ水を差しますけど」
「はい?」
「これ、ギルベルトさんの車みたく、狙撃できるんですよね」
「勿論です」
「変形もするんですか」
「ええ、3段階ですよ!加速したいときは燃料を燃やし尽くした部分を切り離します!」
「ロケットかよ!で、それ、司令塔だから無線もついてると」
「はい。モニターも付いてますよ」
「で。あんた、モニターみながら各隊に指示しつつ高速運転して狙撃できます?」

「・・・。」

局長がふいっと視線を反らす。俺はぽんぽんとボンネットを叩きつつ、顰め面までしてみた。

「運転もただ真っ直ぐ加速するんじゃなくって、カーチェイスですよ?勿論敵の妨害もありますし、後ろから激突されたりとか障害物降ってきたりとか」
「・・・うっ」
「360度敵に囲まれて全員撃つとか出来ます?」
「・・・ううっ!」
「銃声やら爆風に煽られつつ、無線からの隊員の通信がちゃんと聞き取れると思います?隊員たちも場合によちゃあ命がけで通信してるのに、『もう一度言ってください』とか言っちゃいます?それに運転やら狙撃に気を削がれて、隊に誤った指示されたらそれこそ命取りですし」
「・・・そ、それは・・・、その・・・。・・・ええっと・・・」

局長は俺に指摘されたことを腕を組んでうんうん唸りながら考えている。考えているけど、やっぱりこの人には。
ぱんっと俺は勢いよく手を打った。

「はい。諦めてください。これ、あんたには無理ですよ」
「えええええっ・・・!!!?・・・いい案だと思ったんですけど・・・」

   *   *

がっくりと肩を落とした局長は、一応WROモービルでの戦闘を諦めてくれたらしい。ただ、創った車は勿体ないと思ったらしく引き取り手を探し出した。主に電話で交渉していたのだが。

『ヴィンセントいりません?』
『いらん。そんな物騒な車を屋敷に止める気か?』
『でもヴィンセントも移動手段とかいるのでは?』
『ふ。私はいざとなれば変身して飛べばいい』
『その手がありましたか・・・。なるべく人目に付かないように飛んでくださいね?』

『シドはいりませんか?』
『乗り物ってところは興味あるが、生憎今の俺様はシエラ号の改良が最優先でよ。つーか俺様なら自分で一から創るぜ?人様の創ったものより浪漫があるしよ』
『まあ、シドならそうですよねえ』

『バレットさんは・・・』
『ドリルつかねえか!?もうちょっとで油田に届きそうだぜ!』
『うーん本来の使い方ではなさそうですよね』

『クラウドさんはどうです?』
『俺はフェンリルで十分だ。それに銃は使えない』
『ですよねえ』

『ティファさんは・・・』
『うーんもうちょっと小さくて小回りのきく車がいいわね。狭い路地とか通るような。あ、私免許ないんだっけ』
『日常生活に適した大きさではないですねえ・・・』

『ユフィさんは・・・』
『ごつすぎるし、可愛くない!』
『可愛さはもとより重視してませんしねえ』

『ナナキは』
『おいらの手足じゃ運転できないよ?』
『ですよねえ』

『ケットは・・・』
『ボクやったらデブモーグリつれた方が効率的やで?』
『そもそもロボットですしねえ』

諸々含めて誰も引き取ってくれなかったらしい。端末を切った局長はきいと背凭れに凭れつつ、ふうとため息をつく。

「皆さん使えなさそうですよね・・・」
「適材適所ってとこじゃないですか?」
「やはり私が何とか使いこなすしか・・!」
「だからあんたじゃ無理ですって」

局長が蒸し返し、俺が全力で却下していると突然局長室の扉が開いて、白衣の統括が入ってきた。
因みに局長室の扉は局長が結婚してからシャルア統括も開けられるようにアクセス権が更新されている。局長は微妙な反応をしていたが、俺とシャルア統括とシェルク統括と、残りの幹部全員で決定してやった。
そんなシャルア統括がカツカツとヒールを響かせてデスクの前までやってくる。

「リーブ。聞いたぞ?妙な車を作ったとな」
「妙な車って、シャルアさん・・・。戦闘車ですよ。私も先頭に立って、皆さんを守りつつ戦いたかったんですけど・・・。その、部下たちの指示と戦闘車の運転の両立が厳しいようで・・・」
「そもそもあんたに問答無用で攻撃するなんて真似が出来るわけないだろう?」
「そのとーり!!!」
「・・・」

妻に突っ込まれ護衛に同意された局長が意気消沈して顔を伏せてしまった。まあ俺もシャルア統括も全く気にしないけれど。シャルア統括がぽんと局長の肩を叩く。

「それがあんたなんだから気にするな。リーブ。その車、あたしが使ってやる」
「・・・え?」

局長が顔を上げる。シャルア統括が相変わらずの勝気な笑みで言い切った。

「あたしなら銃は使える。丁度移動手段がほしかったところだ。襲撃されてもこれなら迎撃できるんだろう?」
「え、ええ・・・まあ」
「無線がついているなら、あんたと通信もできる。うってつけじゃないか」

暫し目をぱちくりさせていた局長がなるほどと呟く。そして電子キーをシャルア統括に渡した。

「シャルアさんが使うとは思いませんでしたが・・・ありがとうございます。ええと、結構物騒な車ですので気をつけて使ってくださいね?」
「ああ、問題ない。これであんたを守れるならあたしにぴったりじゃないか!」
「・・・え!?ちょ、ちょっと待ってください、それは・・・!」

局長が引き止める前に、シャルア統括は鼻歌を歌いながらキーを振り回しつつ出て行ってしまった。
固まっている局長の後ろで、俺はうんうん、と頷く。

「結局、あんたが守られる側になるってことですよねー」
「レギオン!?」