彼は毎日、少しずつ座標を変えて潜んでいた。
監視先は一点、だが要塞のような重厚な佇まいに中は伺いにくい。
それでも行き交う飛空艇や人々に、現在の流れを読み取る。
突如、彼の端末が振動する。
隠密の彼に連絡を取れるものは、彼の主しかあり得ない。
躊躇せずに通話を開始する。
「はい」
「こんにちは、案内人さん。その節はご協力ありがとうございました」
彼は瞬時に端末を離す。
聞こえてきた声は、主のものではない。
というよりも、その声は監視対象の男のものではないか。
「・・・何故、お主が」
「ええ、ゴドーさんに教えてもらいましたので」
「なっ・・・!」
あっさりと返った問いに、珍しく動揺する。
「おや?ゴドーさんから聞いてなかったのですか」
「・・・」
沈黙する。
それが肯定になると分かっていても咄嗟に声が出なかった。
「まあ、それは扨置き」
「置くな」
「ちょっと手伝っていただきたいことが」
「手伝い、だと?」
隠密の彼の突込みをスルーして、男はさくっと要件に入る。
「実は貴方のいる付近で、子供が迷子になっているそうです」
「・・・。はあ?」
「見つけて保護してください。
ああ、WRO入り口まで連れてきてくださればいいですから。
警備の者には私から伝えておきますので」
「いや、何故、拙者に頼む」
「貴方が一番近いので」
「・・・」
さくっと答えられて更に突っ込むのを諦めた。
自分がウータイからの刺客だとかということは全部分かっているだろうに。
「では、よろしくお願いしますね?」
楽しそうな声を最後に、通話は切れてしまった。
「・・・」
彼は端末を手に、暫し硬直する。
そして、深い深いため息をつく。
目にも止まらぬ速さで行動を開始した。
fin.