14.監視

※時系列としては「条件」の続き。
完全にオリキャラ達だけの会話です。+後半リーブさん。
最後の仕事」「護衛」参照。

草木も眠る丑三つ時。
一般人にはその場所が知らされていない、とある地域の山奥にそれは構えている。
闇夜の中に浮かび上がる巨大な要塞は、近づくものを圧倒する。

潜伏者は監視から逃れ得る距離を保ち、木々の合間に紛れ込んでいた。
ある方向を凝視していたが、はっと背後を振り返る。

「よ!」
「!?」

潜伏者へ気軽に声をかけてきた男。見覚えがあった。
確か、いつも対象者の護衛を務めている剣士。
潜伏者は低く、唸るように問いかけた。

「何故・・・ここが分かった」
「あー元ソルジャー(2nd)をなめんな!!
っていいたいとこなんだが、生憎俺一人の力じゃねんだよな」

深夜だというのに、剣士のテンションは通常通り軽いまま。
潜伏者は隙を伺うように鋭く睨み返す。
剣士はひょいと肩を竦めた。

「ま、ばらしちまうと、俺と局長のコラボってとこだ」
「・・・」

潜伏者は口を閉ざしたが、剣士は勝手に説明を加えた。

「あいつがWRO本部で監視カメラから逃れて身を潜めるならこのあたり
って当たりをつけたうちの一つがここってわけだ。後は俺が気配を読んだだけ」

剣士の答えは、潜伏者の不吉な予感を裏付けるものだった。
つまり、対象者に自分の存在が最初からばれていたという事実。

「・・・あの者、やはりただ者ではない」
「そーだぜ。あいつを甘く見たらあんたも蛙になるぞ?」
「蛙・・・?タッチミーにでも襲われたのか」
「それより質が悪い」
「・・・」

存外真面目に答えた剣士に、潜伏者はそれ以上追及するのをやめた。
対象者に存在が露見し、そのうえで剣士を寄越してきたということは。

「・・・それで、拙者を排除する気か」

潜伏者は剣士に気付かれぬよう、隠し持っている暗器の存在を確認する。
だが、剣士はあっさりと首を振った。

「いんや、伝言しろって。
『もしウータイにとってWROが協力するに値しないと判断されましたら・・・』
・・・『あの戦闘は反故にしてくださって構いませんよ』、だとよ」
「戦闘・・・」
「俺にはさっぱり何のことやら」
「・・・まさか」

ウータイでの協力者を得るために、リーブが出した条件。
表向きは、ヴィンセントとウータイの忍達の戦闘だったが。

『貴方達は、私の命を狙えばいい』

軍配はヴィンセントに上がり、その後ウータイとしてリーブの命を狙うことは
頭領ゴドー・キサラギの名において禁止されていたが。

それを反故にするということは。

はっと顔を上げた。
同時に、森を塒にしていた鳥たちが一斉に飛び去っていく。

剣士の纏う気配が一瞬にして変わっていた。
飄々とつかみ所のない、全くやる気のひとかけらも見せなかったものから、
その場が凍り付くような鋭い殺気。
一歩踏み入れただけで、斬り裂かれるような。

「・・・俺には戦闘、の指す意味が分からねえ。けど、もしあいつの命に関わることなら・・・」

蒼い瞳が危険なほど細められ、月光に閃く。

「如何なる手段を用いても、あんたらを排除する」
「・・・」

潜伏者は真っ向から殺気を受け止め、蒼い目に問いかける。

「・・・何故、そこまであの者に拘る」
「それ、あんたも分かってるんじゃねえの?」

軽く答えた男の気配は、元のやる気のないものに戻っていた。

「は?」
「あんた、ウータイでも選り抜きの忍だろ?
それがこーんな離れた山奥まで、わざわざあいつを監視にきてるってことは、
・・・それだけあいつが無視できない存在だってわかってんじゃねえか」
「・・・」

潜伏者は黙秘した。だが、剣士はにやりと笑った。

「それに、あいつに死なれると、俺の楽しみが減るんでね」
「楽しみ・・・?」
「そ。『局長にいつでも文句を言える』っていう楽しみ」
「・・・」

この剣士の思考はどうなっているのか。潜伏者は一瞬考えてしまった。

「・・・お主は変わっているな」
「いんやー。俺なんてまだまだ。それよりあんた、覚悟しておいた方がいいぞー?」
「覚悟?」
「なんたって、リーブ・トゥエスティの視界にばっちり入っちまったってことだからな」

潜伏者はたっぷり数秒沈黙し、辛うじて口を開いた。

「・・・逆なのではないか?」
「いんや、あいつ、
そこにいるものは味方は勿論、親でも子でも監視者でも暗殺者でも何でも使うからな」
「・・・」
「ま、まずはウータイとの連絡役、頼むよ。
どーせあんた、暫くあいつの周りにいるんだろ?」
「・・・言われずとも」
「おう。じゃ、お互い頑張ろうなー」

まるで昔からの知り合いのようにぽんと肩を叩かれ、うっかり聞き逃しそうになったが。
潜伏者は立ち去ろうとする背中にやっとのことで問いかける。

「・・・待て。何故お互いなのだ」

振り返った剣士は、さも当然のように答えた。

「んあ?どうせあんたもあいつの護衛なんだろ?」
「なっ・・・!?」
「くくっ。あいつは面白いぞー?
何たって俺みたいなのがうっかり護衛隊長になったくらいだからな」
「・・・」

じゃあな、と剣士はあっさりと去っていった。

「何故分かったのだ・・・」

『ユフィ、そしてウータイに脅威となるようなら報告しろ。
そしてもしも世界にとってWROが必要な組織となるようなら・・・』
『・・・命を懸けて、あやつを守れ。いいな』

一方、とある要塞のとある一室にて。

「おや。早かったですね」
「まあ、話の分かる奴だったんで」
「ウータイとの往復って大変でしょうねえ」
「・・・あんた、既にこき使う気満々だな」
「ええ、人手が足りませんので」
「うわあ全肯定だなー。あいつもご愁傷様なことで」
「ふふふ、優秀な方で助かりましたよ」
「・・・あいつに逃げろって言っといた方がよかったか・・・?」
「何か言いましたか?」
「いえ、何でもありません、局長!」

fin.