蠢く墟城

<注意事項>

科学者ハンター設定、G級ハンター後。
※ダブルクロスのHR解放クエストのネタバレあり。
※検索ワードで間違ってきちゃった方、攻略には関係ない二次小説サイトですので、さくっと回れ右してください!

 

戦闘街ドンドルマ。

町長室でリーブは書類を捌きつつ、内心非常にそわそわしていた。それというのも研究所所長であり、G級ハンターでもある妻シャルアが一ヶ月ぶりに戻ってくる筈、だからである。

一ヶ月前。

ドンドルマでモンスターの特性を研究しながらハンターを続けるシャルアの元に、龍歴院から龍識船のメンバーにならないかという勧誘があった。龍識船は飛空船であり、研究室も備える文字通り「空飛ぶ研究室」である。ここドンドルマはモンスターが襲ってくることを想定して設計された城塞であり、その特性上モンスターを迎え撃つ仕様になっているが、龍識船は逆にモンスターの居場所に乗り込み直接叩くことが出来る。

それまではドンドルマを中心に依頼クエストをこなしていた彼女だが、龍識船に乗り込めば未知のモンスターと出会う可能性も高く、研究をすすめることができる。ドンドルマの研究所もあるため専属ではないが、兼任という形でシャルアはドンドルマと龍識船を往復することになった。その、最初の一ヶ月の間に。

集会所レベル最高、G☆4レベルのモンスターが出現してしまったという。

以前戦闘街ドンドルマをもってしても壊滅の可能性があるといわしめたモンスター、ゴグマジオスが襲ってきたときでさえ、そのクエストレベルはG☆3であった。それを上回るとは。伝え聞いたところでは『アトラル・カ』と名付けられたそのモンスターは、南方の砦を一晩のうちに跡形もなく消滅させたという。余りの恐ろしさに、数多くのモンスターを経験した町長のリーブでさえ背筋が凍った。

龍識船としてはそんなモンスターを放置はできず、必然的に居場所を突き止め次第討伐隊を送り込むという。そうだろう、もしリーブが龍識船の隊長なら同じ判断をする。そしてG級ハンターであるシャルアも乗り込んだだろう。何せ彼女のハンターとしての腕は一流である。個人的にはそんな危ないモンスターのところに行かせたくはないが、そんなことは言っていられない状況だ。

龍識船とはやりとりをしているが、如何せん相手は空を飛ぶため便りの頻度は低い。『討伐隊が旧砦跡地に乗り込んだ』までは手紙に書かれていたのだが、その後の詳細は不明なままであった。

「無事・・・だと、いいんですけど・・・」

小さく呟く声が静かな部屋で消えていく。音がないことに嫌気がさして静寂をため息で上塗りしようとしたとき、遠くからバタバタと足音が近づいてきた。

「・・・まさか」

ばたん、とあの日のように扉が唐突に開き、リーブの予想通りの人物が白銀の甲冑を纏ってそこに立っていた。

「リーブ!」
「シャルアさん!?無事でしたか・・・!!!怪我はないですか!?体調はどうですか!?」

立ち上がって彼女の全身に素早く目を走らせる。特に異常はないようで、本人も軽く笑って見せてくれた。

「大丈夫だ」
「そう・・・、ですか・・・!よかった・・・」

思わずデスクに両手を突いて安堵の息を吐き出す。シャルアには大袈裟だな、と笑われたが、何せこれが気になって気になって夜眠るのも怖かったくらいだった。

「兎に角お疲れさまでした。そこに座ってください、今お茶を入れますから」
「ああ、ありがとう」

シャルアにソファを勧め、彼女の前に紅茶を注ぐ。コーヒーも考えたが、休息することを考えれば目が冴える飲み物よりも、リラックス効果のあるカモミールティーの方がいいだろう。
自分にはコーヒーを入れて、シャルアの向かいに座る。シャルアは紅茶を飲み、ふうと力を抜く。
少し落ち着いたころを見計らって、リーブは切り出した。

「・・・大変でしたね。まさか最初の一ヶ月でG☆4モンスターに出会うなんて・・・」
「全くだ。だがまあ、ある意味幸運だったな。未知のG☆4モンスターだから研究しがいがある」

隻眼がきらりと光って、リーブは思わず苦笑する。

「余裕ですねえ・・・。こっちがどれだけ心配したことか・・・」
「心配してくれたのか?」
「当たり前ですよ!もう、はらはらしすぎていっそドンドルマを出てそっちに行こうかと思ったくらいですからね!」
「そうか、だが無事だっただろう?」
「ええ。ただ、もうちょっと通信手段は改善の余地がありそうですねえ・・・」
「まあ郵便屋の手紙ではタイムラグがあるからな」
「そうなんですよねえ・・・」

ふう、とコーヒーを飲みつつ、遠距離拠点との通信手段を検討しようと心に決めた。だが、今は先にシャルアに聞
きたいことがある。『アトラル・カ』は砦を襲撃した後、その巨体にも関わらず一瞬で姿を消したらしい。集会酒場のマスターによれば、そのからくりはどうやらモンスターのもつ特異性にあるのだ、と。

「矢張り『アトラル・カ』は城を鎧のように纏っていたのですか?」
「ああ、マスターの予想通りだった。奴は鎧を纏うように周囲の瓦礫やら大砲やらを糸でたぐり寄せて、巨大な動く要塞、墟城を作り上げていた」
「そんなモンスターがいるなんて、驚きです。さぞかし巨体をもつモンスターだったんでしょうねえ。ゴグマジオスより大きいんじゃないですか?」

リーブは過去ゴグマジオスと戦った(といってもリーブはほぼ支援だったが)ことを思い出す。G☆3モンスターですら、戦闘街の城壁を優に越える大きさだったのだ。G☆4のしかも城を纏うモンスターであれば、それを越えるモンスターに違いない。
天井を見上げて『アトラル・カ』の大きさを想像していると、ぷっと小さく吹き出す声が聞こえた。きょとんと向かいの妻を見返す。

「シャルアさん?」
「くくっ。すまない、いや普通はそう思うのだろうな。マスターもそうだった」
「どういうことですか?」
「逆なんだ。巨大な墟城を作り上げる本体は、あたしよりちょっと高いくらいのちみっちゃい蟷螂だったんだ」
「ええっ!?そ、そんなに小さいんですか?」
「ああ。2mあるかないか、じゃないか?まあ、流石に城、というか4本足の巨大メカ的な要塞は見上げても全貌が掴めないくらい、でかかったが・・・」
「本体の小さな身を守るため色々引き寄せているうちに、巨大な城を纏うように変貌したのかもしれませんね・・・。ですが、それほどまで巨大な城を纏ってしまうなら、倒すのも大変でしたでしょうに・・・」
「まあ、そうだが・・・でっかいが故に足から登ることができてな。登った先に弱点の金色の卵を破壊すれば、またちっさい蟷螂に戻った」
「では、蟷螂に戻ってからが勝負、だったのですね?」
「ああ。だがやつは城にならなくても大砲やら槍やら車輪やらあらゆる物を背負って、糸で操りながら投げてくるからな。やたらめったら攻撃力が高かった・・・。たまたま剣士で乗り込んだからよかったものの、ガンナーはきつかっただろうな」
「そ、そうですか・・・。本当に、よくご無事で・・・」

紅茶を飲み干すシャルアはさらっと話しているが、実際は死闘だったのだろう。未知のモンスターとの戦いの恐ろしさは、リーブも身に染みて理解はしている。ただ、ハンターではないので想像で補う部分があるのが悔しいのだが・・・。戦闘の様子を描いてて、ふと気が付いた。

「そういえば・・・。『アトラル・カ』が卵をもつということは、メス、なんですよね?」
「ん?ああ。落とし物に『女王のフェロモン』があったしな」
「・・・このモンスター、蟷螂、なんですよね?」
「ああ。何処からどう見ても蟷螂だったな」
「蟷螂って・・・確か、春に数百もの卵が一斉に孵化しましたよね・・・?」
「・・・。そう、だな」

シャルアの返答に間があった。
リーブは思わず顔が引き攣る。考えが恐ろしいところに行きついてしまった。

「・・・春になったら一斉に墟城が蠢いたりとか、しませんよね・・・?」

二人して顔を見合わせた。

「「・・・」」

暫し、墟城が世界を蹂躙する地獄絵図を思い浮かべてしまった。が、シャルアがはっと正気に戻った。

「だ、大丈夫だ!あいつの卵は鶏のような丸い大きな卵だった!」
「そ、そうですよね!『アトラル・カ』はモンスターです!昆虫の蟷螂とは違いますよね!?」

あはは、と冷や汗をかきながら笑い飛ばす。いくら何でもそれはない、ないだろうと思う。・・・多分。
多少不安になっているリーブを見抜いたのか、シャルアが力強い笑みを浮かべた。

「それに、あんたがいる」
「はい?」

何故ハンターでもない自分なのだろう?と疑問符を浮かべていると、シャルアが説明を加えてくれた。

「あんた、ドンドルマからボウガンの弾やら大砲やら色々支援してたんだろう?」
「え、ええ。一応戦闘街ですから対モンスター装備は充実してますし、お役に立てるなら・・・」
「ああ。その支援もあって勝てたんだ。所詮あいつの鎧は他人からの借り物の城。地に着いた本物の城塞や装備を作るあんたに勝てるわけ無いからな」

fin.