大晦日

WRO寮最上階リーブの部屋では、一家が炬燵を囲んでいた。

「これで2017年も終わりですねえ・・・」
「あっという間やったなあ・・・」
「ふむ。カルデアでもあったが、炬燵という文化は素晴らしいな。おいリーブ、蜜柑を寄越せ」
「はい、どうぞ。でもハンス、食べ過ぎると手が黄色くなるそうですよ?」
「ふん。手の変色ぐらい今更だ」
「そういえば足は大丈夫ですか?ある程度保湿した方がいいのではないですか?」
「リーブ。俺の足は確かに鱗に覆われているが魚類というわけではない!それとも俺だけ専用の水槽でも用意するというわけか!」
「特に必要ないようですね。よかったです」
「あったまるな・・・」
「お姉ちゃん、ちゃんと水分取らなきゃ。はい、蜜柑」
「ありがとう、シェルク」

ハンスは完全に肩まで埋もれ、シャルアは上半身を倒して突っ伏している。そんな二人にリーブとシェルクがそれぞれ蜜柑を手渡している。因みに特に炬燵の必要ないケット・シーはノリでハンスの隣に座っていた。

「今年も色々ありましたねえ・・・」
「ふむ。題目をみると『リミットブレイク再び』『頑固』『砂の街』『返却期限』『携帯食料』『鳥籠』『教会』『本望』『KP』『人魚姫の原文』『脱兎』『ポジション』『WROモービル』『魅力1,2,3,4』『謝礼』・・・乱暴に分けると貴様の食料事情と異世界トリップばかりだな。他にネタはないのか馬鹿者」
「ええっとその、私に言われましても・・・」
「・・・ん?リーブ。あんた・・・またあたしに言わずに勝手に異世界とやらに飛んだのか?」
「・・・。ま、まあそれはさて置き」
「置くな。ハンス、あんたは知っているようだな。吐け」
「ふむ。俺に物語れというならば存分に誇張してやろう」
「ちょっとハンス!!!」

リーブが止める間もなく、ハンスは皮肉な笑みを浮かべて電子の深海での出来事を披露した。慌てるリーブはシャルアが抑え付けていたために妨害はなかった。ケット・シーとシェルクは興味深そうに聞いているだけで。

「・・・というわけだ。纏めるとマスターは貧弱極まりないことを顧みず自ら戦闘馬鹿どもに売り込みに行き、敵の手下と交渉し、無謀にもアイテムをせしめたというところか!」
「いえ、語弊がありますから!その後ちゃんとそのアイテムは、向こうのマスターさんに使ってもらいましたからね?」
「・・・リーブ」
「は、はい?」

振り返れば奴がいる。もとい、般若のような様相の妻にリーブは仰け反った。本音をいうと逃げ出したかったのだが、炬燵に入っている時点で逃げられなかった。その前に背後をとられているわけだが。

「・・・何故あんたはいつもいつもいつも異世界とやらに巻き込まれているくせに、あたしを連れて行かない!!!あたしなんかイフ話にしか登場しないじゃないか!」

「・・・へ?」

そこですか。と思わず突っ込みそうだったがリーブは口を噤んだ。余計に怒られそうな気がしたからだ。今でも十分怖いのだが。

「んー要するにシャルアはんは拗ねてるんやな」
「異世界とやらに行ったことがあるのは、ハンスだけなのですか?」
「いんや、ボクレギオンはんも行ったことあるで?行先はそれぞれ別やけどなあ」
「そうですか」

ケット・シーとシェルクがのんびりと会話を続けている。ケット・シーはさり気なく爆弾を落としている気もするが、とリーブがシャルアを伺えば。

「いいか。次はあたしを必ず連れて行くんだな」
「え、いえ、それは・・・」
「何だ?あたしでは不足だというのか?」
「いえ、ですから、いつも唐突に異世界についているので・・・」
「連れていけ」
「うっ」

終始押されているリーブは、ひとつため息をついて、序に深呼吸をした。真正面からシャルアを見つめて。

「貴女だけはつれていきません」

きっぱりと断言した。
シャルアに対して負けっぱなしのリーブにしては見事な拒絶具合に周囲が静まり返る。シャルアの隻眼が一際強く輝いた。

「リーブ。どういうことだ」
「常識も通用しない、いつ戻れるか分からない異世界に、大切な貴女を巻き込むわけにはいきませんからね」

そうしてふわりと微笑んだ。
ハンスがこの新婚馬鹿が、リア充爆発しやがれ!と叫び、ケット・シーがいつもどおりらぶらぶやなーと傍観し、シェルクが真っ赤になった。当てられたらしい。そうして言われたシャルアは。

「・・・。分かった」

ひとつ頷いて。そして分身と使い魔を見た。

「ケット・シー、ハンス」
「なんやー」
「ふん。俺を巻き込むな」

彼等らしい返事を聞いてから、シャルアは宣言した。

「・・・こいつに何かあったらいの一番に知らせろ。異世界だろうがなんだろうが、あたしも勝手についていくからな」
「ちょ、ちょっと!人の話聞いていましたか!?」
「了解やでー」
「精々振り落とされんようにな!貴様の世話など俺はごめんだからな」
「問題ない」
「お姉ちゃんが行くなら私も行きます」
「シェルクさんまで!?」

fin.

後書き。

拗ねているシャルアを書いてみたかっただけですが、気付いたらいつものオチになってしまいましたねー。
今年一年、ご訪問ありがとうございました!!!

みなさまよいお年を!

靱葛